高山陽介の彫刻

 須崎を初めて訪れた彫刻家の高山陽介は展示会場となるまちかどギャラリー前を南北に走る通りの先の建造物に市のマスコットキャラクターが、高台から見下ろした須崎の街を走るミニチュアのような列車にも人気のヒーローが全面に描かれているのを見て、また、つづら折りの山道を下った先の入り江で2千体以上の像を彫り続け、セルフビルドのミュージアムを営むアマチュア創作グループに出会ったことで、須崎がキャラクターが溢れた街との印象を抱いたようです。


 木工所からは楠の板を、林業従事者からは台風で倒れた檜の丸太をもらい、滞在中に飲んだコーヒーの空缶まで使い、徹底して現地調達した材料を用いて高山は自身の記憶に朧げに残るヒーロー像を制作しました。


 どこか見覚えがあるような懐かし さと親しみやすさを纏った首像群の背面は円空仏のように大胆に削ぎ落とされており、観る者にそれらの全体像を想像する余地を残すとともに、一体のみで完結せず、互いを補完しながらダイナミックな空間を創出しています。



土間打ちのホールの床にブランケットを敷き、首像を置いた高山は、そこに地図を意識したと言います。地震大国の日本には古くから地震に関する文献が残されています。近代以前の日本の地図には国土をぐるりと龍(のような生き物)が囲んでいるものがあります。当時、地震は龍の仕業と考えられていたのでしょうか。やがて龍は鯰へと姿を変え、現在も民間信仰として定着しています。


 この作品の周りもひも状のもので囲まれています。ブランケットの上には履物を脱いで上がっていただくことができます。低く置かれたユニークな木彫たちと目線を合わせ、対峙し、くつろいでください。もしかするとこの下にも龍や鯰が眠っていて、その上に据えられた像は地震を封じる要石でもあり、この土地の守り神=ヒーローなのかもしれません。



想像の尽きない楽しい作品を高山は須崎に残し、

そして、ヒーローたちと共に去って行きました。


(すさき芸術のまちづくり実行委員会 川鍋 達)

現代地方譚6

そこに生き、そこに在る。