五月女哲平 記憶の積層
絵画を"行為とマテリアルの積み重なり"と捉える五月女哲平は近年、写真やガラス板など、その素材を絵具以外にも求め、それらのレイヤーによって独自の絵画の在りようを示そうと探求しています。2011年3月11日、制作中に東日本大震災に見舞われた五月女は避難から戻ったスタジオで散乱している自作を前に絵画=Pictureもまたモノに過ぎないことを強く自覚します。以来、モノクロームの色調を主体にしたイメージとマテリアルとの関係性に関心を寄せているようです。
今作ではポスターという形式を用い、滞在中に利用した市内の施設や店舗に協力を得て、複数の箇所に掲示することで街の中に意識的にイメージを反復させながらこの場所に繰り返し起こる災害の記憶をなぞっています。
この作品には五月女自身が撮影した画像と須崎の写真技師竹下増次郎が撮影した1946年の昭和南海大地震の記録写真とが無数に重ねられ、さらにステンシルによって過去に南海トラフに起因する地震が発生した年号(諸説あり)が記されています。そしてその末尾には予言めいた未来の年号も記されています。
栃木と東京との2拠点で活動している五月女は中央と周縁という問題を日頃から感じているのではないでしょうか。先鋭化し、純化するにつれ、アートは一般的な理解から乖離してしまいがちですが、五月女は抑制された表現の中に様々なメディアを積層することによって、自身が身を置く地場や社会との関わりを繋ぎとめようと試みているようにも思います。
過去の記録、作家の今日的視点、そして未来を予見する記号を重ね合せることで、災害も大きな時間の流れの中にあることを示していますが、合計で8点制作されたこれらの作品はそれぞれに作家の手が加えられ、異なる様相になっています。私たちの暮らすこの街の被災はおそらく避けられないことなのでしょう。それでもこの街の将来には様々な可能性があることをこの作品は表しているのかもしれません。
五月女哲平
SUSAKI
2019
インクジェットプリント、ラッカー
協力:竹下写真館、竹下忠君
(すさき芸術のまちづくり実行委員会 川鍋 達)
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